[映画]In the Loop


『In The Loop』(イン・ザ・ループ)

【イギリス映画 2009年  日本未公開】

互いに同盟で結ばれたアメリカとイギリスの、中東への軍事介入を始めるまでの経緯を両国の閣僚・官僚を中心に描いた政治風刺のコメディー映画


【あらすじ】※ネタバレ有り

両首脳が中東への侵攻を模索する米国と英国───

「戦争は予知できない」

英国の国際開発大臣サイモン・フォスターによるラジオインタビューでの、ゆくゆくは戦争が起きるとも受け取れるこの失言が物語の起点となる。
事態を収めるため首相広報官のマルコム・タッカーは、メディア向けの発言では均衡を保つようサイモンを叱りつける。
数合わせとして外務省の会議に招かれたサイモン。米国側の戦争推進派と慎重派が対立する中、英国の大臣としてコメントを求められるも口ごもり場を唖然とさせ、
報道陣には「戦争は予知できない」発言の説明を求められる。

国際開発大臣サイモン・フォスター

「あらゆるものも、おそらく予知などできない… 濃霧の中の飛行機には山を予知できない。そしてそれは突如として現実になり避けられないものとなる。…山と表現したが、仮定の山であり何かを意味するものではない… つまりは、平和の道を歩むためには、時に争いの山を登る覚悟が必要だ。」

首相広報官マルコム・タッカーふたたび広報官マルコムに事を荒立てるなと叱りつけられる冴えない大臣サイモン。とはいえ米国に渡り実情調査をするよう首相に抜擢される。(マルコムはサイモンに米国ではできる限り誰ともしゃべるなと警告する。)

一方の米国───
慎重派の合衆国国務次官補カレン・クラークは、推進派の外交担当リントン・バーウィック側との駆引きで、リントン(手榴弾を文鎮に使っている)が率いている「未来構想委員会」が実質的な戦争委員会であることを見抜く。

国防総省ジョージ・ミラー将軍と合衆国国務次官補カレン・クラークカレンは同じく慎重派の国防総省ジョージ・ミラー将軍に助言を求め、軍隊を戦闘配備するには戦闘部隊が足りないと告げられる。(「戦争で勝利しても終結後に生き残る者がいなければ負けたも同然。」) 二人はサイモンを反戦活動の広告塔として利用することを目論む。

米国に降り立ち浮かれ気分のサイモンとその部下トビー。カレン側から戦争委員会の出席を要請される。別便で米国にやって来たマルコムはサイモンに、カレンは「予知できない」発言、リントンは「争いの山を登る」発言を期待しているから、何も言うなと釘を刺す。

翌日、マルコムはリントンから戦争委員会に招かれたと勘違いしホワイトハウスを訪れる。委員会から爪はじきにされたと察知し、憤慨したマルコムは委員会が始まる国務省へ急ぐ。(「1814年のワシントン焼き討ちを再現してやろうか?〇×△□」)
同じ頃、委員会の存在が各方面に漏れ(前日トビーが調子に乗りCNNに口を滑らせた)、寿司詰め状態の戦争委員会。リントンはカレンにこの会は未来構想委員会であり戦争委員会ではないと言い張る。
外交担当リントン・バーウィック侵攻を擁護する決定が委員会で成されたのかと問い詰められたリントンは、サイモンの発言を引き合いに出しサイモンに意見を求める。リントンとカレンの双方から発言を期待されたサイモンは支離滅裂な言葉を口にする。(「……英国にはこんな言い回しがあって、むっかしー、むっかしー、ちょー難しー。」※独自翻訳)
リントンは発言をいいように解釈させ、コンセンサスは形成していると主張し会を終了させる。到着したマルコムはリントンをつかまえ追及(罵倒)するが、英国側の諜報を要求される。

マルコム、サイモン、トビー、英国に帰国───
選挙区の崩れかけた壁地方の課題を聞くために市民と面談を繰り返すサイモン。その中で、サイモンの選挙区の境界線上にある民家の壁が崩れかけていると苦情を受ける。カレンには電話で説教をされ、崩れかけた壁の件で新聞に叩かれ、踏んだり蹴ったりのサイモン。

 

米国───
リントンとの一対一の面談をすっぽかされたミラー将軍は(「俺がいたことをアイツが後で分かるよう、机の上にでっかいウ☆チを置いていっていいか?」)、カレンとあるアイディアを思いつく。侵攻に否定的な米国の調査書類《PWIP PIP》をリークさせてはどうかと。

後日、大統領が中国からの自動車関税に拒否権を行使すると知らせがあり、国務省内が慌ただしく動く。国連安全保障理事会の軍事介入の採択で中国に棄権させるためと察したカレンは国連本部へと向かう。

英国───
米国の国連安保理の知らせを受けた英国では官邸も参加することを決定。
戦争を支持したくないサイモンは大臣を辞任することを考え始めるが、首相からキーマンとみなされ国連本部に行くよう命じられる。

米国───
マルコム、サイモン、トビーが国連本部に到着。マルコムは、侵攻の調査書類《PWIP PIP》がBBCにリークされたと本国から連絡を受ける。
情報が報道されると採決に支障が出ることを恐れたマルコムは、英国の国連大使に採決時間を早めさせるよう押したてる。
もう打つ手がないカレンとミラー将軍は、サイモンに軍事介入反対を理由に大臣を辞任することを迫るが失敗する。(カレン「あなたまだ鷹派を演じてるの?」 サイモン「…私は鴈鷹だ」 ミラー「あんたは馬鹿だ。いや、馬鹿鴨だな?」)
一方でリントンはマルコムに英国側の諜報を要求し、それを手渡すまで採決時間を遅らせるよう迫る。(リントン「機密書類をリークされても、何も出来ない。諜報を持ってくるよう言われても、何も出来ない。採決を遅らせるよう頼んでも、何も出来ない。残念ながらあんたは役立たずの☆☆野郎(a useless piece of s**t)だ!」(中略)「崩れた壁、なんと深刻な。そっちのほうがあなたにお似合いだよ。」)
リントンにこてんぱんに侮辱されたマルコムの姿を見たサイモンはマルコムに採択後に辞任すると伝える。
政府内の円滑さを保つためなら手段を選ばないマルコムはトビーと共に《PWIP PIP》の中身を書き換え英国側の諜報としてリントンに手渡す───お返しの悪態と共に。
リントンも元の《PWIP PIP》を侵攻に肯定的な内容に書き換え、国連安保理で軍事介入の承認が決まる。
崩れた壁報道マルコムは、リークされた《PWIP PIP》の報道を最小限にするため、サイモンの選挙区の《崩れた壁》報道を誇張させサイモンを辞任でなくクビに追い込む。(「万里の長城とシーソーをして宇宙から見える唯一の間抜け政治家。」)

登場人物のその後を垣間見せ映画は終わる。



映画の中では侵略する国の名は明かされないままだが、観客にはそれはイラクだと推定できる。
後半の国連本部でのドタバタ劇は、裏切りと工作とだまし合いと蹴落としの連続で、ここまでするかという感は否めない。
(実際のところイラク戦争は国連安保理決議のないまま開戦したが。)

なぜか憎めなく魅力のある登場人物たちは特徴を誇張してデフォルメされたものではあるが、見ていて面白くても実際には決してそばにいて欲しくない人たちである。

タイトルの「In the Loop」、直訳すると「権力の中枢にて」。
中枢にいるために保身に走るのは人の性なのだろうか、何かを変えるため・遅らせるために中枢にいる必要があるのは確かなのに、全くこの映画は喜劇であり悲劇でもある。
狂気の沙汰は戦争自体だけではなく、戦争までの経緯も性質は違えど似たようなものになりえるということだろう。
戦争は予知できるものなのか?
引き金となった大臣サイモンの失言は偶発的でありそれすら「予知できない」ものである。劇中のマルコムの台詞を借りるなら「『予知できる』は開戦宣言と同じ」なのだ。